西芳寺庭園

―西芳寺庭園―
さいほうじていえん

京都府京都市
特別名勝 1952年指定


 京都市右京区、松尾の静かな谷筋に位置する西芳寺は、鎌倉時代から室町時代にかけて活躍した禅僧、夢窓疎石(むそうそせき)によって中興された臨済宗天龍寺派の禅寺である。その境内東側に広がる庭園は、作庭の名手としても名高い夢窓疎石自身の手によるものであり、禅の精神を表現した名庭として知られている。湧水の多い多湿な土地にあるが故、まるで絨毯のような厚い苔によって覆われているその庭園は、他に類を見ない独特の風情を醸しており、それが故に苔寺とも称される。景観の美しさはもちろんの事、その後の庭園造営に与えた影響も多大であり、西芳寺庭園は日本庭園史上極めて重要な庭園として、国の史跡および特別名勝に指定されている。




苔によって覆われた西芳寺の庭園
この庭園に生息する苔は121種類にも及ぶという

 寺伝によると、西芳寺が存在するその地には、かつて聖徳太子の別荘が営まれていたという。それを奈良時代の高僧である行基(ぎょうき)が法相宗の寺院へと改め「西方寺」とした。西方寺はその後に衰退したものの、室町時代初期の暦応2年(1339年)に夢窓疎石が再興し、「西芳寺」と改名したのだ。なお、この西芳寺という名は、中国禅宗の開祖である達磨大師の来歴を伝える故事「祖師西来、五葉聯芳(祖師は西から来て、五つの花が順に咲くように悟りを開いた)」から付けられたという。西芳寺はその後の応仁の乱で被害を受け、また江戸時代には川の氾濫により二度の洪水に見舞われた。現在のような苔むした景観の庭園になったのは、その後の江戸時代末期頃だという。




池泉回遊式庭園の中心、黄金池(おうごんち)
左奥が長島、右奥が朝日ヶ島、そして右手前の石組は鶴島だ

 西芳寺を中興したその際、夢窓疎石はそれまで存在していた浄土式の池泉庭園を大々的に改修し、自らが理想とする禅の庭園を作り上げた。それは上段下段の二段から構成され、そのうち下段は黄金池と呼ばれる池泉を中心とする池泉回遊式庭園、上段は洪隠山(こういんざん)と呼ばれる山の斜面に石組を配した枯山水庭園となっている。下段の黄金池は心字池とも称され、その名の通り「心」という字の草書体をかたどった池泉である。黄金池には長島、朝日ヶ島、夕日ヶ島と呼ばれる三つの中島が配されており、その周囲には護岸の石組が巡らされている。これらの中島は、作庭当時には白砂で覆われていたというが、現在は護岸石組もろとも苔によって覆われている。




黄金池の北西にたたずむ金剛池(こんごうち)
池の中には夜泊石(よどまりいし)が配されている

 長島の南縁には、どっしりとした石の両脇にやや小ぶりな石を置く三尊石組が組まれている。三尊仏を表すこの石組は、以降に作庭される庭園の数多くにおいても見られるが、その大元はこの西芳寺の三尊石組なのである。なお、苔によって作庭当時の面影が隠されている西芳寺において、黄金池の東側に浮かぶ鶴島の石組は、被覆する苔が少なく比較的当時の趣を残しているという。鶴島の側に位置する舟石も同様だ。また黄金池の北西には金剛池という名の小さな丸池が設けられているが、そこには夜泊石と呼ばれる石が二列に渡り配されている。これらは蓬莱島へ向かう宝舟が並んで停泊する姿を表しているとされるが、池を渡る為の橋ないしは回廊の礎石であるという説もある。




黄金池の南西に建つ茶室、湘南亭(しょうなんてい)
千利休の養子である千少庵(せんのしょうあん)が建てたとされる

 築庭当時、黄金池の周囲には本堂の西来堂(さいらいどう)を始め、様々な建物が配されていた。特に金剛池の南に存在していた瑠璃殿(るりでん)は、室町幕府第三代将軍足利義満(あしかがよしみつ)が建てた鹿苑寺金閣、および第六代将軍足利義政(あしかがよしまさ)が建てた慈照寺銀閣の規範となった二層の楼閣建築である。現在、作庭当時の建物は一つも残っていないものの、黄金池の南西に建つ湘南亭は千利休の養子である千少庵が桃山時代に建てたと伝わる茶室であり、重要文化財に指定されている。他には、大正9年(1920年)建立の少庵堂(しょうあんどう)が西側に、昭和3年(1928年)に寄進された潭北亭(たんほくてい)が東側に建ち、庭園の景観を引き立てている。




洪隠山に組まれる龍門瀑の枯滝石組

 黄金池から門をくぐって上段に登ると、そこは厳しい修行の空間となる。唐の名僧、亮座主(りょうざす)が東を指し示したという伝説より名付けられた指東庵(しとうあん)の側には、ダイナミックな三段組みの枯滝石組が存在する。これは鯉が滝を登ると龍になるという中国の故事をモチーフにした龍門瀑(りゅうもんばく)であり、下段と中段の間には鯉を表す鯉魚石(りぎょせき)が据えられている。また指東庵の西には龍淵水(りゅうえんすい)と呼ばれる湧水が存在するが、その横には夢窓疎石が座禅を組んで修行をしたと伝わる座禅石が置かれている。なお、この龍淵水の石組は、後の茶庭において茶室に入る前に手を清める蹲踞(つくばい)の原型と言われている。

2007年09月訪問




【アクセス】

京都駅から京都市営バス73系統または3系統で約60分、「苔寺バス停」下車徒歩約5分。
阪急電鉄嵐山線「上桂駅」または「松尾駅」から徒歩約15分。

【拝観情報】

拝観料3000円、往復はがきによる事前申し込み制。
拝観の時間は返信はがきにより指定される。

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