最上川上流域における長井の町場景観

―最上川上流域における長井の町場景観―
もがみがわじょうりゅういきにおけるながいのまちばけいかん

山形県長井市
重要文化的景観 2018年選定


 山形県南部、最上川の上流域に広がる長井盆地。その中央付近に位置する長井市の中心市街地は、中世以前からの門前町や宿場町などとして栄えた在郷町「宮村」および「小出村」をルーツとする。江戸時代に最上川の舟運が上流まで開通すると、両村には船着き場が設けられ、置賜地方西部における物資の集散地として発展した。長井には今もなお昔ながらの町割が維持されており、水路が複雑に張り巡らされた中に商家が点在する町並みを目にすることができる。江戸時代における最上川舟運の流通・往来に由来する町場景観が良好に残ることから、かつての在郷町にあたる宮地区と小出地区、および最上川の船着き場跡や水面域を含む166.8haの範囲が重要文化的景観に選定された。




多数の商家建築が残る小出地区のあら町通り

 山形県と福島県の境に聳える西吾妻山に端を発する最上川は、長井盆地で西の朝日連峰を源流とする置賜野川が流れ込む。その合流地点の南側、扇状地の端部にあたる微高地に長井の町場が広がっている。米沢と庄内・出羽を結ぶ街道沿いに位置しており、また越後へと向かう街道が交差することから、古くより交通の要衝として重要視されてきた。宮村は總宮(そうみや)神社および遍照寺の門前に位置しており、小出村はその約2キロメートル南に存在する。それぞれ宮村館(みやむらだて、現在は旧西置賜郡役所が建つ)、白山館(はくさんだて、現在は白山神社が鎮座する)を政治の中心とし、商業の拠点として宮の十日町、小出のあら町を中心に、町場発展の基礎が形成されていた。




最上川越しに見る長井の町場と朝日連峰

 最上川の流路のうち左沢(あてらざわ)から長井の区間には難所の多い五百川(いもがわ)峡谷があり、長らく舟の運航ができなかった。しかしながら江戸時代前期の元禄6年(1693年)に米沢藩の御用商人であった西村久左衛門(にしむらきゅうざえもん)が巨額を投じて開削工事を実施。舟運を開くことに成功する。日本海から米沢に近い長井まで舟で直接乗り付けることが可能となり、元禄7年(1694年)には宮村に米沢藩の船着き場や青苧(あおそ、衣服繊維の原料となる)蔵、上米蔵が設置され、また小出村には商人たちによる船着き場が整備された。この最上川舟運の開通によって上方との交易が盛んになり、長井は在郷町としての役割を残しつつ、商人の町としても発展していった。




杉の巨木に囲まれた總宮神社の境内

 朝日連峰の豊富な雪解け水を集めて扇状地に注ぐ置賜野川は、扇頂部で直角に曲がることから幾度となく氾濫しては水害をもたらした。生活に不可欠な水を供給してくれる一方で、時には大きな災いとなる。長井の人々にとって置賜野川は崇敬しつつも畏怖の対象であった。毎年9月に執り行われる總宮神社の例大祭では、江戸時代前期にまで遡る歴史を持つ獅子舞の奉納が行われる。その獅子の姿は平安時代に置賜野川上流の三淵に身を投げた「卯の花姫」が竜神となって置賜野川を下ってくる姿を模したものと伝わっており、十数人もの若者が入った黒獅子が、波文様や水玉文様をあしらった長幕の胴体をくねらせながら町を練り歩くその姿は、まさに川を下る竜そのものである。




野呂川の上を大樋川が通る、水路の立体交差

 置賜野川では大規模な治水工事も行われている。江戸時代中期の宝暦7年(1757年)に起きた大洪水の後には、江戸幕府の直轄により扇頂部に石積の締切堤防が築かれた。また置賜野川に木蓮堰と呼ばれる堰を設け、扇央部の農村や扇端部の町場に張り巡らした水路に分流させて水量を制限している。農村ではその水を利用して新たに水田が開かれ、町場では敷地に引き入れ生活用水として利用するようになった。長井の町場を巡る水路網は、こうした治水と利水の歴史によるものだ。特に小出地域には立体交差する水路を始め、複雑に入り組んだ水路が数多く現存しており、そこここから清涼な水の音が聞こえてくる、特色ある歴史的風致を作り出している。




敷地内を流れる「入り水」と階段状の「かわど」

 長井の町場を通る路地のうち、小出地区から宮地区にかけて南北に通る本町通り(あら町通り)と、宮地区を東西に通る十日町通りが旧街道であり、路地に面して間口が狭く奥行きの深い短冊状の地割を持つ町家が連なっている。各家の敷地内は表から奥へ店、主屋、作業場などが並んでおり、用途に応じた複数の土蔵が建っている。それらの間を縫うように共用の水路から引いた「入り水」が通されており、階段状の洗い場である「かわど」や家屋内に引き込んだ「入れかわど」を設けている。かつては呉服商や反物商、問屋が多かったものの、明治時代から大正時代にかけて敷地内水路を利用した醤油や酒などの醸造業や商店へと変化しており、現在もその業種を継承している家が多い。

2018年04月訪問




【アクセス】

<小出地区>
山形鉄道フラワー長井線「南長井駅」から徒歩約5分。

<宮地区>
山形鉄道フラワー長井線「あやめ公園駅」から徒歩約5分。

【拝観情報】

散策自由(ただし、住民の迷惑にならないように)。

【関連記事】

最上川の流通・往来及び左沢町場の景観(重要文化的景観)

【参考文献】

・月刊文化財 平成30年2月(653号)
最上川上流域における長井の町場景観|未来に伝える山形の宝
長井市観光ポータルサイト|水と緑と花の町 ようこそやまがた長井の旅へ