永保寺観音堂、永保寺開山堂

―永保寺観音堂―
えいほうじかんのんどう
―永保寺開山堂―
えいほうじかいざんどう

岐阜県多治見市
国宝 1952年指定


 中国は廬山の虎渓に景色が似ている事から、虎渓山という山号を持つ永保寺。それは庭園の名手として知られる僧侶、夢窓疎石(むそうそせき)によって開かれた、臨済宗南禅寺派の仏教寺院である。その境内に広がる夢窓疎石作庭の庭園は、切り立った岸壁が露出する梵音巌(ぼんのんがん)と、そのたもとに建つ観音堂を中心として、手前に臥竜池(がりゅういけ)を配すなど、夢窓疎石の特徴を残す名園として名勝に指定されている。この庭園の中核を担う観音堂と、庭園奥に鎮座する開山堂はいずれも室町時代前期の建物であり、夢窓疎石作庭の庭園において作庭当時の建造物を残す庭園は他になく、唯一無二の遺構として国宝に指定されている。




天然の巨岩(梵音巌)を利用した永保寺庭園

 修行を行っていた鎌倉にて土岐頼貞(ときよりさだ)との親交を得た夢窓疎石は、正和2年(1313年)に頼貞の拠点があった長瀬山へと入り、その麓に位置する古渓に庵を築いて寺とした。それが永保寺の始まりであるという。文保元年(1317年)になると、共に鎌倉で修行を行っていた元翁本元(げんのうほんげん)に永保寺を任せ、自らは後醍醐天皇の要望を受けて上京し、南禅寺の住持職(寺の主僧)に就く。その後、夢窓疎石が臨川寺の開山となった際に、夢窓疎石は永保寺の開創となり、元翁本元がその開山へと改められた。南北朝時代には、北朝の光明天皇の勅願所となったことで力を持ち、その後も数多くの塔頭(たっちゅう)に支えられ、永保寺は現在にまで存続して行く。




禅宗様と和様の特徴を併せ持つ、永保寺観音堂

 庭園の中核を担う観音堂は、桁行三間に梁間三間、一重裳階(もこし)の付いた、檜皮葺の入母屋造建築である。その名が示す通り、室町初期に作られたと見られる聖観世音菩薩坐像を本尊とする。この観音堂は、夢窓疎石が永保寺を開いたその一年後の正和3年(1314年)に建てられたものであるとされ、古くは水月場とも呼ばれていた。軒が反った裳階付きの屋根など、一見すると禅宗様仏殿のように見えるものの、随所に和様の技法が取り入れられた、特異な折衷様の建築となっている。また、この観音堂は後世においての改修が少なく、建立当時の様相をそのままに保つ建築としても非常に貴重なものである。




戸は花狭間(はなざま)で飾られた桟唐戸(さんからど)
垂木は見えず、弓欄間も飛貫(ひぬき)に設けられている

 禅宗様建築の特徴として、垂木が放射状に並ぶ扇垂木、組物が隙間無くびっしり組み上げた詰組、窓は花頭窓であり、その上部には弓なりに湾曲した欄間、弓欄間が巡らされている、そして床は土間、などが挙げられる。しかしこの観音堂は、軒は垂木を見せない板張りとなっており、組物も詰組ではなく、柱の上にだけ斗栱(ときょう)を置く疎組(あまぐみ)。床は土間でなく板が張っており、その外側には縁を回している。花頭窓は無く、正面三間には花狭間(花模様の透かし彫り)で飾られた桟唐戸が開いている。弓欄間があるも扉の上部ではなく飛貫だ。このように、永保寺観音堂は通常の禅宗様仏殿とは随所に渡って異なる特徴を持つ。




境内の奥に鎮座する永保寺開山堂

 開創である夢窓国師が死去した翌年の1352年は、奇しくも開山の元翁本元が没した20年後でもあった。その年永保寺では、境内の最も奥まった場所であり、かつてはその付近に夢窓疎石や元翁本元が庵を結んだと言われる僊壺洞(せんこぼら)に、僊壺堂(せんこどう)が建立された。これが現在の開山堂である。建てられた当初、僊壺堂は祠堂部分のみの建物であったが、後に礼堂と、それらを繋ぐ相の間が増築され、今に見られる開山堂の姿になったのだ。祠堂(内陣)の規模は桁行一間、梁間一間で、屋根は檜皮葺の入母屋造、裳階付き。礼堂(外陣)は桁行三間、梁間三間で、こちらも屋根は檜皮葺の入母屋造だが、裳階は無い。




反った屋根の軒下には扇垂木と三手先の詰組が見られる

 観音堂より遅く建てられたということもあって、開山堂は観音堂と比べてより禅宗様の濃い建築となっている。屋根は大きく反り、垂木は放射状の扇垂木。組物は三手先の詰組であるなど、禅宗様建築の特徴が良く表れている。扉は観音堂と同様、花狭間の入った桟唐戸で、正面三間と側面一間に開いている。禅宗寺院では開山を尊ぶ為、開山堂を設けて祀る所が多い。この永保寺の開山堂は、現存する禅宗寺院の開山堂の中では最も古いものであるという。祠堂の内部には開創の夢窓国師と開山の元翁本元の坐像が鎮座されており、その奥には宝匡印塔が祀られている。この宝匡印塔は元翁本元の墓塔であり、開山堂の附けたりとして国宝指定を受けている。

2010年02月訪問




【アクセス】

JR中央本線「多治見駅」から徒歩約30分。

JR中央本線「多治見駅」から東鉄バス「小名田小滝」行きで約10分、「虎渓山バス停」下車、徒歩約5分。

【拝観情報】

境内自由、拝観時間5時〜17時。

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