妙法院庫裏

―妙法院庫裏―
みょうほういんくり

京都府京都市
国宝 1957年指定


 京都は七条大路を東へ進み、鴨川に架かる七条大橋を渡ったその先。京都国立博物館の東側に位置するのが、天台宗の仏教寺院、妙法院である。皇族が代々住持を務める門跡寺院である妙法院は、祇園は知恩院の北に位置する青蓮院(しょうれんいん)、及び大原の里に位置する三千院(さんぜんいん)と共に「天台三門跡」と称され、人々の崇敬を集めてきた。明治時代の廃仏毀釈でその境内は大幅に縮小されたものの、江戸時代の妙法院は、方広寺や三十三間堂などをもその管理下に収める程の、広大な寺域を有していたという。その妙法院の主要建造物のうち、寺院の台所にあたる庫裏(くり)は、桃山時代に建てられた豪快かつ巧みな建築となっており、国宝に指定されている。




東大路通に面する妙法院の唐門

 妙法院は他の天台三門跡と同様、元は比叡山に置かれていた延暦寺の子院にルーツを持つという。平安時代の末期頃、妙法院は比叡山から祇園の建仁寺付近にあたる綾小路小坂へと移され、さらに江戸時代になると、徳川家康によって法住寺(ほうじゅうじ)の境内であった現在地に再度移転させられた。法住寺は平安時代の永延2年(988年)に創建された寺院で、後白河天皇の宮殿である法住寺殿が置かれ、後白河天皇の陵墓もまた境内に築かれた。妙法院は移転後も、徳川家の庇護を受けて栄えたが、幕末にはその宸殿(しんでん)において、長州寄りの公家七人が薩摩、会津両藩によって京都を追われた際に長州へ落ち延びる事を決定した「七卿落ち」協議の舞台でもある。




庫裏の南に建つ妙法院玄関
玄関と大書院の内部は狩野派の障壁画(重要文化財)で飾られている

 妙法院の伽藍の中心を担うのは、境内中央に建つ宸殿である。宸殿とは門跡寺院特有の施設で、法要などを行う場だ。本堂は宸殿とはまた別、境内の南東にポツンと鎮座しており、そこには元々比叡山にあったとされる、平安時代中期に作られた普賢菩薩像(重要文化財)が本尊として祀られている。妙法院の正式な入口である玄関は、宸殿の北西に西面して構えられており、庫裏はその玄関の北側に並んで建っている。庫裏の東隣には大書院、護摩堂などの諸堂が南庭を囲むように建ち並び、それぞれ渡廊下によって接続されている。なお、それらのうち玄関と大書院は、後水尾天皇の中宮御殿である東福門院にあったものを移築したとされており、重要文化財に指定されている。




珍しい入母屋造の庫裏である

 安土桃山時代、天下人の座をその手中に収めた豊臣秀吉は、奈良の東大寺に倣って京都にも大仏を造立すべく、方広寺(ほうこうじ)を創建して大仏殿の建立に着手した。当時の方広寺の境内は、前述の法住寺の境内をも取り込んだ、広大なものであったという。現在、妙法院に建つ庫裏は、方広寺の大仏殿が完成した文禄4年(1595年)に、千僧供養(千人の僧侶を招き、食事を供して行う法会)を実施するにあたって、その千人分の食事を用意する為に建てられたものであると伝わっている。しかしながら、大棟に乗る鬼瓦には慶長9年(1604)とのヘラ書きが残されており、千僧供養の時期とは多少のずれが生じている。いずれにせよ、桃山時代末期に建てられたものである事は違いない。




堂々たる妻飾と鬼瓦

 なお、一般的に庫裏は、台所のみならず僧侶の住居を兼ねている事が多い。しかし妙法院の庫裏は、台所の機能のみに特化した構造となっており、それは元々千僧供養の台所として建てられた建築である為だから、と考える事もできる。その規模は桁行21.8メートルに梁間23.7メートル、高さは18メートルである。通常、庫裏は切妻造の妻入とするのが通例であるが、この庫裏は珍しく入母屋造の妻入となっている。本瓦葺きの屋根の上には煙出の小屋根が乗っており、また屋根の北面にも同じく煙出の庇が備えられている。壁は白漆喰で仕上げられ、桁や梁などとのコントラストが美しい。庫裏の正面やや右よりには、唐破風付きの立派な玄関が構えられている。




庫裏の大棟上に乗る煙出

 内部は前方が土間であり、後方は一段高い板間、左右奥には座敷が設けられている。このうち天井が張られているのは座敷部分のみで、土間と板間は天井を張らずに柱や梁をそのまま見せた、化粧屋根裏の野天井である。幾重にも張り巡らされた小屋組の構架を、曲がりくねった梁が支えるその光景は、何とも豪壮極まりない。庫裏という内向きの建物にも関わらず、桃山時代らしい秀吉好みの建築であると言えるだろう。なお、最上部の煙出には階段がかけられ、上る事ができるようになっている。かつてこの煙出は、物見櫓として用いられていたのだ。煮炊きを行うかまどは正面左手の土間に据えられており、その前方には五穀豊穣を願う為の、大黒天を祀る棚が備え付けられている。

2010年11月訪問




【アクセス】

「京都駅」より京都市営バス100、202、206、207系統で約10分「東山二条バス停」下車、徒歩約3分。

【拝観情報】

通常非公開。
秋の京都非公開文化財特別公開で公開される時がある(毎年公開されるとは限らない)。

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