園城寺金堂、園城寺新羅善神堂

―園城寺金堂―
おんじょうじこんどう
国宝 1953年指定

―園城寺新羅善神堂―
おんじょうじしんらぜんしんどう
国宝 1953年指定

滋賀県大津市


 滋賀県、琵琶湖の南西に連なる山々の一つ、長等山(ながらやま)の中腹に位置する天台寺門宗(天台宗寺門派)の総本山、長等山園城寺(ながらさんおんじょうじ)。一般的には三井寺と呼ばれ、現在も境内に多数の子院を持つ大寺院であるが、往時はさらに広大な寺域を有し、天台宗山門派の延暦寺と並ぶ力を誇っていた。その境内には桃山時代末期に建てられた、あるいは移築されてきた建造物が多数存在しており、それらの中でも境内の中心である金堂は、桃山時代を代表する仏堂建築として国宝に指定されている。また、園城寺の鎮守社として南北朝時代に建てられた新羅善神堂は、桃山時代以前から園城寺に残る現存唯一の建造物であり、こちらもまた国宝に指定されている。




園城寺の鎮守社である新羅善神堂

 園城寺の創建は、遥か古代の飛鳥時代にまで遡る。藤原京から大津京へ遷都した天智天皇が672年に崩御すると、その弟である大海人皇子と、子である大友皇子が皇位を巡って対立、壬申の乱が勃発する。それに勝利した大海人皇子は天武天皇となり、敗れた大友皇子の子である与多王(よたのおおきみ)は、父の菩提を弔う為に自らの田園城邑(でんえんじょうゆう、田畑屋敷)に寺院を建立。天武天皇もまたそれを許可し、「園城」という勅額を与えたのだ。その後、園城寺は延暦寺と共に天台密教の中核を担い、大いに栄えた。桃山時代の文禄4年(1595年)には、豊臣秀吉によって寺領を没収され、建物も破却されてしまったものの、後に秀吉の遺言によって再興が許され、復活を遂げた。




正面から見る園城寺金堂

 故に、現在園城寺に存在する建造物は、桃山時代の末期に建てられたものが多い。境内の中心である金堂もまた、文禄4年(1595年)の破却時に比叡山へと移築され(この当時の金堂は、延暦寺転法輪堂として現存する)、現在の金堂は秀吉の意思を継いだ秀吉の妻、北政所ことねねによって慶長4年(1599年)に再建されたものだ。その規模は再建前と同じ桁行七間、梁間七間で、屋根は檜皮葺きの一重入母屋造。正面には幅三間の向拝が付けられている。桃山時代を代表する和様の仏堂として知られ、蟇股(かえるまた)には猿や鳳凰、向拝の手挟(たばさみ)には菊や牡丹、半人半鳥の迦陵頻迦(かりょうびんが)など、木鼻(きばな)には獏といった、華やかな彫刻が施されている。




金堂向拝の手挟、蟇股、木鼻には、それぞれ彫刻が施されている

 内部は前より二間を外陣、中三間のうち中央五間を内陣、両脇間を脇陣とし、後より二間を後陣とする。外陣、脇陣、後陣はいずれも板敷きであるが、内陣は床を張らない土間とする。また、内陣と外陣を格子戸や扉によって仕切るなど、天台密教の本堂形式に則った仏堂となっている。内陣に安置されている厨子も金堂と同時期に作られたものであるとされ、金堂の附けたりとして国宝に指定されている。厨子内に祀られている本尊の弥勒菩薩像は、天智天皇の念持仏とされ、創建時に賜ったものと伝わる。しかしながら、絶対秘仏である為に一度も開帳された事が無く、その姿形は一切不明だ。園城寺に伝わる「寺門伝記補録」より、身丈が三寸二分である事が分かるのみである。




室町時代の典型的神社建築の様相を呈す新羅善神堂

 かつての園城寺の寺域北端、現在では園城寺の境内より500メートル程北に行った所には、南北朝時代の貞和3年(1347年)に足利尊氏の寄進を得て建立されたと伝わる新羅善神堂が存在する。これは堂と名が付くものの、園城寺の守護神である新羅明神(しんらみょうじん)を祀った鎮守社、すなわち神社である。園城寺が秀吉の命により欠所となった際、他の堂宇は全て破却されてしまったが、新羅善神堂だけはその祟りを恐れられ、唯一取り払われずに残された。故に、園城寺の堂宇の中では現存最古のものである。その規模は桁行三間、梁間三間の三間社。平入りの檜皮葺切妻屋根を前方に伸ばした流造(ながれづくり)で、一間の向拝が付属する、典型的な室町時代の神社建築だ。




装飾を控え目に抑えた、品の良い意匠である

 新羅善神堂の意匠は、装飾が欄間の透かし彫りくらいと少なく、簡素かつ上品な印象となっている。内部は前より一間が外陣で、後ろより二間が内陣。内陣には須弥壇が設けられて厨子が置かれているが、この須弥壇と厨子もまた、新羅善神堂の附けたりとして国宝だ。厨子に安置されている新羅明神座像は、平安時代に刻まれたヒノキの一木造である。新羅明神はその名の通り新羅国の神とされ、平安時代に園城寺を再興した円珍(えんちん)が唐から帰国する際、船中に現れてその加護を約束したという。新羅明神座像は、白塗りの顔に、血走り垂れ下がった目、高い鼻、細長く奇妙に曲がった指等、その姿は極めて異形であるが、神像として高い評価を受け、国宝に指定されている。

2011年02月訪問




【アクセス】

京阪電鉄石山坂本線「三井寺駅」より徒歩約10分。
園城寺新羅善神堂は、京阪電鉄石山坂本線「別所駅」より徒歩約5分。

【拝観情報】

園城寺境内は拝観時間が8:00〜17:00、拝観料500円。
園城寺新羅善神堂は境内自由。

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