住吉大社本殿

―住吉大社本殿―
すみよしたいしゃほんでん

大阪府大阪市
国宝 1953年指定


 大阪市住吉区に鎮座する住吉大社。大阪の人々から「すみよっさん」という愛称で親しまれているこの神社は、平安時代の延長5年(927年)に編纂された延喜式神名帳に名を連ねる式内社であり、また摂津国の一宮をも担っていた古社である。その境内の中枢には、第一殿から第四殿まで、計四棟の本殿が建ち並び、そのいずれもが住吉造(すみよしづくり)と呼ばれる神社建築の様式で建てられている。この住吉造は、伊勢神宮の神明造(しんめいづくり)や、出雲大社の大社造(たいしゃづくり)と共に、最古の神社建築様式とされるもので、この住吉大社の本殿は江戸時代後期に建て替えられたものながら、神代にまで遡る住吉造を今に伝える建築として貴重であり、国宝に指定されている。




住吉大社西門の奥に存在する石舞台(重要文化財)
厳島神社、四天王寺の舞台と共に、日本三舞台と称されている

 住吉造が最古の神社建築様式の一つとされる事から分かる通り、住吉大社の歴史は非常に長い。西暦200年、仲哀天皇(ちゅうあいてんのう)の后であり、応神天皇(おうじんてんのう)の母である神功皇后(じんぐうこうごう)は、住吉三神のお告げによって、懐妊中にも関わらず海を渡り、朝鮮半島の新羅、百済、高句麗を降伏させた。いわゆる三韓征伐である。その後、帰還した神功皇后が住吉の地に住吉三神を祀ったのが、住吉大社の起源という。住吉は後に応神天皇の子である仁徳天皇(にんとくてんのう)が住吉津(すみのえのつ)という港を開いた場所であり、住吉大社は海上安全の守護神として海を行く人々の崇敬を受け、また全国に散在する住吉神社の総本社として栄えていった。




同じ形式の社殿が四棟、L字型に建ち並ぶ

 住吉大社の四棟の本殿は、最も奥に第一殿が建ち、その手前に第二殿、第三殿が縦に配され、第三殿の右隣に第四殿が並ぶという、他に類を見ない特異な配置となっている。祭神は、第一殿が底筒男命(そこつつのをのみこと)、第二殿が中筒男命(なかつつのをのみこと)、第三殿が表筒男命(うはつつのをのみこと)で、これら三柱を総称して住吉三神と呼ぶのだ。そして第四殿に祀られているのは、住吉大社の起源に関わる息長足姫命(おきながたらしひめのみこと)こと神功皇后である。海の神を祀る為、社殿はいずれも西、すなわち大阪湾の方を向いて建っている。現在こそ埋め立てが進み、住吉大社は陸地の中に存在するが、かつて境内は大阪湾に面する海岸沿いに位置していた。




第三殿(左)及び第四殿(右)の幣殿(重要文化財)
国宝の本殿は、これら幣殿の背後に接続されている

 現在の社殿は、江戸時代後期の文化7年(1810年)の建造と、国宝建造物にしては新しいが、これはかつて住吉大社が式年遷宮を行っていた為である。式年遷宮とは、一定年数で社殿を建て替える神社特有の慣わしで、住吉大社では20年ごとに行われていた。それは経年劣化による社殿の穢れを祓い、常に若々しくあり続けるという、神道における常若(とこわか)の精神を示すと共に、定期的に建て替えを行う事で、その建築様式や建造技術が変わることなく次世代へと継承される効果をもたらすのだ。古建造物に対する文化財的意識が高まった近代以降は、式年遷宮で建て替えまで行う神社は伊勢神宮のみとなり、住吉大社もまた30年ごとに社殿の修理を行う事で、式年造替に代えている。




直線的な屋根が特徴的な、住吉大社本殿(第四殿)

 住吉大社の社殿はいずれも、本殿の前に幣殿が建ち、それらが渡殿(わたりでん)によって接続される構成となっている。幣殿は切妻屋根の平入で、正面に千鳥破風と軒唐破風を付け、割拝殿の形式を採る。幣殿の規模は、第一殿のもののみ桁行五間、梁間二間で、それ以外は桁行三間、梁間二間だ。いずれも幣殿の奥には桁行二間、梁間一間の渡殿が続き、渡殿内には朱塗りの鳥居が構えられている。この幣殿と渡殿もまた、本殿と同様に文化7年の式年遷宮で建て替えられたもので、2010年には重要文化財の指定を受けている。渡殿の背後に続く国宝の本殿は、切妻屋根の妻入で、その規模は桁行四間、梁間二間。力強い直線的な屋根が特徴的な、古式然とした神社建築である。




豕扠首や懸魚によって飾られた本殿(第三殿)の背後面
丹塗りと胡粉塗りのコントラストが鮮やかだ

 板玉垣と荒垣によって二重に囲まれている本殿は、礎石の上に柱が立てられ、それに羽目板壁と床を張った、弥生時代の高床式倉庫を彷彿とさせる形状の建物である。柱や破風板、垂木などは、色鮮やかな丹塗りであり、壁は貝殻を砕いて作られた胡粉(ごふん)で白く塗られている。妻面は、合掌状に組んだ部材の中央に束を立てた豕扠首(いのこさす)と、破風板より下げられている懸魚(げぎょ)によって飾られており、屋根の上にはこれまた直線的な形状の千木(ちぎ)と、五本の堅魚木(かつおぎ)が置かれ、社殿を象徴している。本殿の内部は二部屋に分かれており、そのうち手前二間が外陣、一段高く作られた奥側二間が内陣だ。いずれの部屋も、内部に柱は立てられていない。

2008年06月訪問
2011年02月再訪問




【アクセス】

阪堺電気軌道阪堺線「住吉鳥居前駅」より徒歩約1分。
南海電鉄南海本線「住吉大社駅」より徒歩約3分。

【拝観情報】

境内自由。
本殿のある境内中枢の開門時間は、4月〜9月が6時〜17時、10月〜3月が6時30分〜17時。

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