東照宮 陽明門

―東照宮 陽明門―
とうしょうぐう ようめいもん

栃木県日光市
国宝 1951年指定


 関東平野の北端に聳える日光三山(男体山、女峰山、太郎山)の麓に位置する日光山内には、江戸幕府の初代将軍であった徳川家康を「東照大権現(とうしょうだいごんげん)」として祀る「東照宮」が鎮座する。境内には幕府の威厳を示すべく極めて豪華な装飾が施された社殿群が建ち並んでおり、それらの中でも特に著名なのが本社の正面に構えられた「陽明門」である。白色の胡粉や黒色の漆、おびただしい数の彫刻によって門全体が荘厳華麗に飾り立てられており、一日中眺めていても飽きないことから「日暮門(ひぐらしのもん)」とも称されている。江戸時代前期における最高の技巧を尽くして築かれた日本伝統工芸の粋ともいえる存在であり、国宝に指定されている。




陽明門には全部で508体もの彫刻が存在する

 「二荒山(ふたらさん)」とも呼ばれる男体山を主峰とする日光三山は、古くより修験道が盛んであった山岳信仰の霊場である。天正18年(1590年)の豊臣秀吉による小田原征伐の際には北条方に加担したことで寺領を没収され衰退したが、江戸時代初頭の慶長18年(1613年)に徳川家康の側近であった高僧「天海」が日光山本坊の貫主(座主)になったことで一大聖地として発展する。元和2年(1616年)に家康が死去すると、遺言によりその遺体は晩年の居城であった駿府城近くの久能山(くのうざん)に埋葬され、一周忌後に江戸の真北に位置する日光山に改葬された。明治時代に入ると神仏分離令により日光山内は「東照宮」「二荒山神社」「輪王寺」に分けられ、現在の二社一寺構成となった。




隙間なく詰められた組物が圧巻だ

 現在にまで残る東照宮の社殿群は、祖父である家康を崇敬していた第三代将軍の徳川家光が寛永13年(1636年)に建て替えたものである。そのうち「陽明門」は本社中枢部の神門として石段の上に南面して建つ。なお、陽明門という名は、平安京大内裏の外郭十二門のひとつに由来するものだ。三間一戸の楼門であり、屋根は入母屋造の銅瓦葺、四方に軒唐破風を付している。左右には袖壁を備え、本社の社殿を取り囲む東西廻廊に接続している。軒は二軒繁垂木を放射状に配した扇垂木であり、組物は下層が四手先で、上層は三手先、柱上のみならず柱間にも密に配した詰組、柱と柱を繋ぐ頭貫の上に台輪を置き、上層には花頭窓を開くなど、細部の建築様式は禅宗様を基本とする。




白、黒、金のコントラストを見せる下層背面の柱と組物
手前から二本目の柱は「グリ紋」が逆向きだ

 礎石の上に建つ丸柱にはグリ紋と呼ばれる渦巻き状の地紋が刻まれており、その中に散らされた丸文には様々な動物や花鳥の浮彫が施されている。全12本の柱のうち背面の右から二本目はグリ紋が逆向きとなっており、これは「満つれば欠ける」(完成したものは崩壊していく)の故事によりあえて未完成な状態とした「魔除けの逆柱」であると言われている。頭貫には牡丹唐草文の地紋を施し、その上に唐獅子の彫像を付けている。頭貫の木鼻もまた唐獅子の丸彫であり、口を開けたものと閉じたものが交互の阿吽となっている。これらの柱や頭貫には貝殻を砕いて作られた胡粉が塗られており、接合部などの要所に鍍金の錺(かざり)金具を嵌め、白地に眩い金の輝きを放っている。




上層に見られる「龍」「息」「龍馬」の彫刻

 組物は黒漆で塗られており、部材の縁部には金箔を押して牡丹唐草文の沈金彫を施している。下層における組物の四手目は唐獅子の丸彫となっており、また組物の間には中国の故事などに由来する人物像の彫刻が入れられている。上層における組物には二段の尾垂木が入り、そのうち上段の尾垂木先は家光の干支であり古代中国において王権の象徴であった龍の丸彫が施されている。下段の尾垂木先は龍と似ているものの豚のような鼻を持つ生き物であり、宝暦3年(1753年)に纏められた『御宮並脇堂社結構書』には「息」と記されているものの、その読みが「そく」なのか「いき」なのかは不明である。さらに下の頭貫木鼻は、これまた龍に似ているが馬のような蹄を持つ「龍馬(りゅうば)」である。




中央間の天井画は狩野探幽の雲竜図だ
オリジナルは痛みが激しく、現在のものはレプリカである

 下層の中央間には黒漆塗に鍍金の錺金具で装飾した両開き扉を吊っており、また左右脇間の前面には右大臣と左大臣の随神像を、背面には阿吽の獅子像を据えている。両脇間の外側には牡丹の彫刻が嵌められているが、これは建立当初のものではなく江戸時代中期の寛延2年(1749年)から宝暦3年(1753年)にかけて行なわれた修理の際に付け加えられたものだ。中央間の天井には狩野探幽(かのうたんゆう)の筆による昇り龍と降り龍の雲竜図、右間には天女図、左間には上半身が人間で下半身が鳥の迦陵頻伽(かりょうびんが)が描かれている。また旧部材として年代を示す2枚の天井板が残されており、それらも陽明門の附けたりとして国宝に指定されている。

2006年05月訪問
2011年04月再訪問
2017年09月再訪問
2021年09月再訪問




【アクセス】

・JR日光線「日光駅」または東武鉄道日光線「東武日光駅」から東武バス「中禅寺温泉・湯元温泉方面行き」で約10分、「西参道入口」バス停下車、徒歩約10分。
・JR日光線「日光駅」または東武鉄道日光線「東武日光駅」から徒歩約40分。

【拝観情報】

・拝観料:大人1300円、小中学生450円。
・拝観時間:4月1日〜10月31日は9時〜17時、11月1日〜3月31日は9時〜16時(入場は閉場30分前まで)。

【参考文献】

東照宮 陽明門|国指定文化財等データベース
・講談社MOOK 国宝の旅
日光東照宮ホームページ
とちぎの文化財【東照宮 陽明門 附 旧天井板二枚】

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