桜川市真壁

―桜川市真壁―
さくらがわしまかべ

茨城県桜川市
重要伝統的建造物群保存地区 2010年選定 約17.6ヘクタール


 関東平野の北東部に悠然とそびえる筑波山。古くは万葉集にも詠まれ、「西の富士、東の筑波」と、富士山に並び称されてきた茨城県のシンボルと言うべき名山だ。その筑波山の北山麓、現在は国の史跡に指定されている真壁城跡のたもとに広がる町が、真壁である。江戸時代から大正時代にかけて、この周辺地域における物資の集散地として栄えた真壁町には、今もなお当時の繁栄が偲ばれる立派な商家の建築が建ち並んでいる。重厚な土蔵造(どぞうづくり)の商家を始め、様々な種類の建築が混在する、関東地方における古い町並みの特色を備える真壁の町は、当地における在郷町の在り方を今に伝えるものとして、2010年に重要伝統的建造物群保存地区へと選定された。




真壁町のランドマーク的存在である旧真壁郵便局

 真壁町の歴史は、常陸平氏の流れを汲む多気直幹(たけなおもと)の四男、多気長幹(たけながもと)が、平安時代末期の承安2年(1172年)に筑波山系の足尾山西麓に広がる台地上に真壁城を築いて真壁氏と名乗り、その西側一帯に城下町を開いた事に始まる。以降、真壁の地は中世を通じて真壁氏の拠点であったが、関ヶ原の戦い後の慶長7年(1602年)、真壁氏が家臣として仕えていた佐竹氏が秋田へと移封される事となり、真壁氏もまた佐竹氏と共に秋田へ移っていった。その後、真壁の地は笠間藩によって治められる事となり、元和8年(1622年)には真壁城が廃城となり、その代わりに陣屋が置かれ、以降、真壁町は周辺地域の産物が集散する在郷町として発展していく。




上宿通りに建つ伊勢屋旅館
明治中期の建立であり、二階の立ちが高い

 江戸時代の真壁の町は、かつて真壁城が存在していた古城村と、城下町であった町屋村の二つに分かれていた。そのうち陣屋が置かれたのは町屋村であり、現在の真壁の中心地、そして重伝建に選定されたも、この町屋村を中心とする一帯の地域である。現在、そこに見られる町割は、遅くとも慶長20年(1615年)には成立していたと考えられており、城下町時代の町割がほぼそのまま今に継承されていると言える。明治時代に入ると陣屋は廃止されたものの、今でもその陣屋跡を中心に東から西へと通りが伸び、上宿、下宿、高上、仲町、新宿の五丁町を形成している。特に仲町と下宿町を結ぶ御陣屋前通りには数多くの古建築が立ち並び、良好な町並み景観を形成している。




通り沿いに建ち並ぶ、村井醸造の酒蔵

 真壁郡や筑波郡などの一帯は、木綿の栽培が盛んな土地であり、江戸時代には木綿や縞木綿(綿織物)の集散地として栄えていた。それらの品々は、主に北関東や東北地方に向けて出荷されていたという。明治時代に入った後も、真壁町は木綿栽培を基盤とした製糸業によって栄え、また明治中期頃からは筑波山系の山々から切り出される良質な御影石が知られるようになり、さらには大正7年に筑波鉄道が開通した事で、真壁は石材の町として発展した。そのように、明治時代から大正時代にかけて財を成した真壁町の商人たちは、真壁に豪壮な商家建築を残したのだ。現在、真壁はそれら古建築の保存活動も活発で、真壁町内に存在する国登録有形文化財の数は104棟にも登る。




陣屋前通りの木村家住宅
天保の大火以降、嘉永6年(1853年)までに建てられた、江戸後期の土蔵造である

 江戸時代、真壁の建物は茅葺屋根が主であったが、天保8年(1837年)に大火が起きて以降、土蔵造の商家が増えていったという。土蔵造とは、柱などの木部を漆喰で塗り込め、耐火性を増した建築で、江戸時代末期から明治時代にかけて各地で建てられるようになった。現在も真壁には、御陣屋前通りを中心に土蔵造の建物が残っているが、そのような土蔵造の商家以外にも、壁に漆喰を塗るが木部までは塗り込めない真壁造(しんかべづくり)の商家や、漆塗の商家、農家風の住宅、洋風建築など、多種多様な建築が混在している。また特に規模の大きな商家となると、主屋の脇に薬医門や袖蔵を建てて塀を巡らし、敷地の奥に煉瓦や大谷石で造られた蔵を持つ所も少なくない。




東日本大震災の爪痕が痛々しい

 真壁の町並みが重要伝統的建造物群保存地区に選定されたのは2010年の6月29日、その矢先の2011年3月11日に東日本大震災が発生した。その地震と津波は数多くの文化財に甚大な被害をもたらしたが、この真壁の町並みもまたその例に漏れず、古い建物の約7割が被害を受けた。中には傾いてしまった主屋や、完全に倒壊してしまった土蔵、石蔵なども存在する。現在は屋根をビニールシートで覆うなどの応急措置が取られているが、本格的な復興はこれからといった様相だ。なお、古建築の修理に際し、まだ十分な経験を持たない桜川市は、全国伝統的建造物群保存地区協議会に技術支援を要請した。今後は全国各地の技術者が、リレー形式で真壁の復興支援に当たるという。

2011年08月訪問




【アクセス】

つくばエクスプレス「つくば駅」より、つくば市北部シャトルバス「筑波山口行き」で約35分、終点「筑波山口バス停」下車、レンタサイクルで約60分(4月1日〜11月30日のみ。)

つくばエクスプレス「つくば駅」より、レンタサイクルで約150分(12月29日〜1月3日を除く通年)。

JR水戸線「岩瀬駅」より、徒歩約2時間。

【拝観情報】

町並み散策自由(ただし、住民の迷惑にならないように)。

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