白馬村青鬼

―白馬村青鬼―
はくばむらあおに

長野県白馬村
重要伝統的建造物群保存地区 2000年選定 約59.7ヘクタール


 北アルプスの北部、白く輝く白馬連峰に抱かれた白馬村。スキー場やペンションが集まる白馬村の市街地から少し東へ入った山腹に、善鬼伝説が語られる古の里、青鬼(あおに)集落がひっそりたたずんでいる。そこには、江戸時代後期から明治時代にかけて建てられた大規模な茅葺民家が密集し、またそれらの周囲には、江戸時代に掘削された用水路によって育まれてきた、およそ二百枚もの広大な棚田が広がっている。緑豊かな山々に囲まれ、前方には北アルプスの峻険な峰々を望む、その良好な周辺環境と相まって、青鬼は歴史的な山村景観を今に伝える貴重な集落として、棚田や水路を含む約60ヘクタールの範囲が重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。




主屋が一列に並ぶ青鬼集落
現在、茅葺屋根はトタンによって覆われている

 青鬼集落の周辺には、善鬼堂遺跡や番場遺跡といった、縄文時代中期から後期にかけての遺跡が発見されており、青鬼の地には太古より人が住まっていた事が判明している。また、白馬村は越後と信州を結ぶ千国街道(ちくにかいどう)の中継地である。それは別名「塩の道」とも呼ばれ、日本海沿岸の糸魚川から松本まで、塩や魚を初めとする物流の大動脈であった。青鬼は、その千国街道の要衝である千国宿から分岐して、柄山峠を越えて鬼無里村(きなさむら)経由で戸隠神社や善光寺へと至る、間道の途上に位置する集落である。今でこそ主要道路からやや外れた静かな山間の里であるものの、かつては参詣客などを通じて外界との交流が盛んであった。




中二階建ての家は「かぶと造り」の屋根が特徴的だ

 現在、青鬼には茅葺屋根の主屋が14棟と、それに付随する土蔵が7棟、緩やかにカーブする等高線に沿って、整然と建ち並んでいる。主屋はいずれも寄棟造りで、一階建ての平屋タイプと、表側に低い二階が付く中二階建てのタイプが混在するが、そのうち平屋建てのものは江戸時代、中二階建てのものは明治時代の建造であるという。特に中二階建ての主屋は、「かぶと造り」と呼ばれる正面の屋根を短く切った特異な形状を取り、またその中二階部分は僅かながら手前に突き出る「出桁造り」となっている。中二階部分の意匠は、どの家も白壁と化粧貫で統一されている。なお、集落最奥に位置する降籏(ふるはた)家は青鬼最古の民家であり、その建立は19世紀初頭にまで遡るという。




土蔵は火災を考慮して主屋から離れた位置に建つ
冬季は土蔵の周囲に藁をかけ、雪囲いとする

 主屋の規模は、桁行が七間半から九間、梁間は四間半から六間と、いずれも大型である。内部の間取りは部屋の並びの数によって、「三間(みま)造り」と「四間(よま)造り」に分けられる。そのうち基本となるのが「三間造り」で、その名の通り、横三列に部屋が並ぶ構造である。上手の部屋は「ざしき」であり、それに続く中央手前は囲炉裏のある「いどこ」、その奥側が寝室の「ねどこ」である。下手の手前は玄関に繋がる土間の「でいり」、その奥が「うまや」となる。なお、「四間造り」の場合は、中央の列と下手の列の間にもう一列、「ちゃのま」と呼ばれる部屋が加えられる。また古い家は「ねどこ」が狭く、新しいものは「ざしき」が複数に分かれているなど、時代によって差異がある。




双体道祖神などの石仏が並ぶ、集落入口の向麻石仏群

 青鬼集落の北側、岩戸山側へ石段を100メートル程上った所には、鎮守の青鬼神社が存在する。この神社の祭神は善鬼大明神であるが、それには次のような伝説が語り継がれている。かつて、青鬼集落の東方にある鬼無里村に、鬼のような大男が現れて村人を苦しめていた。そこで村人は、この大男を岩戸山中腹の底なし穴に閉じ込めたという。暫くすると、鬼無里村の北にある戸隠村で、鬼のような大男が村人を助け、喜ばれているという話を聞くようになった。村人たちは、大男が穴を抜ける際に魂が入れ替わったのだろうと考え、以降はこの大男を「お善鬼様」として祀るようになったという。この青鬼神社の歴史は古く、火揉みの神事など、昔からの祭事が今でも毎年執り行われている。




棚田から、青鬼集落越しに北アルプスを望む

 青鬼集落の東に連なる棚田は、石垣によって築かれた壮大なもので、「日本の棚田百選」にも選ばれている。沢より高い所に位置する為に給水の便が悪いが、青鬼堰と呼ばれる用水路を引く事で、そのような土地での稲作を可能としている。江戸時代末期の万延文久年間(1860〜1863年)、当時の村人総出で築かれたというこの青鬼堰は、沢の上流から水を取り込み、集落の棚田を潤している。その青鬼堰は、上部の棚田、下部の棚田のそれぞれに給水する、青鬼上堰と青鬼下堰の二系統に分かれ、いずれも急斜面の岩盤をくり貫いて作られた貴重な工作物である。また青鬼集落には、道祖神や馬頭観音、庚申塔といった石仏も数多く現存しており、集落や棚田を静かに見守っている。

2011年04月訪問




【アクセス】

JR大糸線「信濃森上駅」より徒歩約1時間。

【拝観情報】

町並み散策自由(ただし、住民の迷惑にならないように)。

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