白山市白峰

―白山市白峰―
はくさんししらみね

石川県白山市
重要伝統的建造物群保存地区 2012年選定 約10.7ヘクタール


 古くより信仰の山として人々の崇敬を集めてきた霊峰白山。石川県、福井県、富山県、岐阜県の四県にまたがり鎮座するその山並みの北西麓に、白峰と呼ばれる集落が存在する。白山より流れ出た水が集う手取川に沿って形成された白峰は、かつて存在していた白峰村の中心地である。旧白峰村は周囲を山に取り囲まれた険しい土地にあり、また冬季には積雪が2メートル以上にもなる豪雪地帯でもある事から、外部との交流が少なくシゲ弁という独自の方言が受け継がれてきた。その白峰に建ち並ぶ家屋は、土地の気候と風土に適応した独自の風情を醸しており、集落のほぼ全体にあたる東西約230メートル南北約960メートルの範囲が重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。




切妻屋根妻入の大型家屋が並ぶ白峰中心部

 奈良時代の養老元年(717年)、泰澄(たいちょう)という修験者が初めて白山の頂を極め白山を開山した。平安時代の天長9年(832年)には加賀、越前、美濃からそれぞれ禅定道(参詣の登山道)が開かれており、白峰村はこのうち越前から登る禅定道の経路上に位置する事から大勢の参詣者が訪れ賑わったという。禅定道沿いには仏堂や石仏が数多く配され、白山は霊場として確固たる地位を築いていった。また比叡山の日吉大社に白山が勧請された事で、白山信仰は天台宗の布教と共にますます隆盛を極める事となる。白山の神である白山比盗_(しらやまひめのかみ)を祀る白山神社は、現在も全国に2000社以上を数えるという。




白山から降ろされた仏像を安置する林西寺
本堂は江戸時代末期に建てられたもので、内部の装飾が見事である

 ところが明治時代に入ると神仏分離令が出され、全国で廃仏毀釈運動が勃発する。白山もまた山中より仏教的要素がすべて取り除かれ、禅定道に並んでいた仏堂や石仏はことごとく打ち払われてしまった。白山の峰々に安置されていた仏像も山から下ろされ破壊の憂き目に遭うところであったが、白峰集落の寺院である林西寺の住職、可性法師がそれらを買い取って保護した。かつて白山の山中に鎮座していた八体の仏像は、現在は林西寺本堂横の白山本地堂に安置されており拝観が可能である。特に旧室堂にあった11世紀の銅造十一面観音菩薩立像は、当時としては極めて珍しい別鋳組み合わせ造りで作られた貴重な金銅仏であり、国の重要文化財に指定されている。




集落の中心部には寺社と大家が集う

 白峰集落はかつては牛首と呼ばれており、少なくとも16世紀にはその存在が確認されている。この牛首と言う地名は、泰澄が白山を開山した際に守護神として牛頭天王を祀った事から名付けられたとされ、そこからも白山と白峰集落の関わりをうかがい知る事ができる。集落は南北に細長い河岸段丘の狭隘な土地にあるため、通りに面して主屋が密集して建ち並び、通常の山村集落と比較して一戸あたりの面積が狭いという特徴がある。江戸時代初期、元和の頃には「ミンジャ」と呼ばれる用水路が集落内に通され、川より高い位置にある集落の水利を確保していた。この「ミンジャ」は集落内に水道が引かれた明治29年(1896年)まで、飲料水などの生活用水として使われていた。




土蔵のようなたたずまいの山岸家住宅

 白峰集落の主要産業は養蚕と製炭、焼畑農業であった。特に養蚕は16世紀半ばには既に始められていたと考えられている。白峰の家屋は二階建てや三階建てといった大型のものが多いが、これは一階部分を生活の空間とし、二階以上を蚕を育成する蚕室として利用していた為である。江戸時代以前の家屋は平屋が通常だったのに対し、白峰集落ではその当時より多層階の家屋が建てられていた。屋根は雪が落ちやすい切妻造で、外壁はナルと呼ばれる直径2センチメートルから3センチメートルの木の枝を下地に用い、その上に土を厚く塗り篭める事で断熱性を高めている。古いものは下屋や庇を設けない為、その外観はまるで土蔵のようだ。




裏通りには狭い土地を活用した畑や土蔵が並ぶ

 家屋内部の柱や梁は積雪の重みに耐えられるよう極めて太い木材が使われており、また二階以上は半間ごとに柱が立てられている為、明り取りの窓が縦に細長いのが特徴的だ。また二階には「セド」と呼ばれる窓を設けるが、これは冬季における薪の搬入口である。さらに屋根には雪下ろしの為の梯子が常設されているなど耐雪の工夫が至る所に見られ、まさに豪雪地帯に特化した家屋であると言える。このように、白峰は山と雪によって閉ざされた厳しい土地にあり、それ故に米が取れず人々は昔から栃(トチ)の実をあく抜きして食していた。また現在の豆腐よりも古い製法で作られる「かた豆腐」と呼ばれる豆腐も作り続けられ、栃餅と共に白峰の名物となっている。

2012年10月訪問




【アクセス】

JR北陸本線「金沢駅」より加賀白山バス白峰線で約1時間45分「白峰」下車。
北陸鉄道石川線「鶴来駅」より加賀白山バス白峰線で約1時間「白峰」下車。

【拝観情報】

町並み散策自由(ただし、住民の迷惑にならないように)。

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