原の辻遺跡

―原の辻遺跡―
はるのつじいせき

長崎県壱岐市
特別史跡 2000年指定


 日本について書かれた最古の書物である中国の魏志倭人伝には、対馬国より瀚海(かんかい)を南へ千余里行くと一大国(一支国)に着く、とある。玄界灘に浮かぶ壱岐島の南東部、その平野部に広がる原の辻遺跡は、旧石器時代から古墳時代にかけての遺構が残る複合遺跡だ。中でもその中核を成すのは、大規模集落として発展した弥生時代から古墳時代前期にかけてのものであり、そこからは弥生時代の集落跡や墓地、水田、船着場の跡などが発見されている。その広大な集落遺跡は、魏志倭人伝に記述のある一支(いき)国の王都とされ、弥生時代の一支国の様子、および東アジアとの関係を紐解く遺跡として2000年、特別史跡に指定された。




緩やかな丘の斜面に建つ復元建造物

 原の辻遺跡の存在は大正時代より知られており、当時から小規模な発掘も行われていた。戦後、昭和26(1951)年から10年間に渡って計4度の調査が行われ、住居跡や墓地の遺構、中国の貨幣や鉄器などが出土している。その後、平成5(1993)年より行われた大規模調査によって、この遺跡は三重の濠を持つ巨大環濠集落跡であることが判明、また環濠の外側からは船着場の跡が発見された。これにより原の辻遺跡が相当な規模のクニであったことが分かり、平成7(1995)年には原の辻遺跡が一支国の王都であると特定された。魏志倭人伝に書かれている倭国のクニの中で、その場所まで判明しているのは一支国のみである。




見張りの為の物見櫓と、兵士の住居

 魏志倭人伝が今に伝える一支国の様子は、3世紀半ば、弥生時代末期のものである。それによると、一支国の長官は卑狗(ひこ)、副官は卑奴母離(ひなもり)と呼ばれており、彼らによりクニは納められていた。地形が険しく主に魚介類を捕って生活していた対馬国とは異なり、地形が比較的なだらかな一支国では、低地に水田を作って米を育て暮らしていたという。しかしながら、一支国には対馬国の3倍にあたる3000もの家があり、食料は十分には足りていなかった。その為人々は海を渡って市へと赴き、そこで穀物などを買い入れていたということだ。




丘の頂上にある祭儀場の入口には鳥が飾られている
弥生時代、鳥は穀物の霊を運び、悪霊を払う神の使いとされていた

 原の辻遺跡は、壱岐島の中でも特に広い平野である深江田原(ふかえたばる)に存在する。弥生時代は今より海面が高く、集落のある丘は海へと繋がる入江に面していた。内濠、中濠、外濠の三重濠に囲まれた環濠集落の規模は、東西約350m、南北約750mのおよそ24ヘクタール。弥生時代の環濠集落としては、吉野ヶ里遺跡に次ぐ面積を誇る。集落内の最も高い場所には、祭儀場であると考えられている掘立柱の高床式建造物群跡があり、その周囲には竪穴住居や高床式倉庫が建ち並び、集落を形成していた。入江を向いた斜面には物見櫓も設けられており、そこから兵士が入江を監視し、外敵からクニを守っていた。




集落跡の北西付近で見つかった船着場跡の復元模型
港の遺跡としては東アジアで最古のものだ

 原の辻遺跡は環濠集落のみならず、その外側にも広がりを見せる。集落の北西付近は、弥生時代には川が通っていた場所であり、そこからは船着場の遺構や水田、道路の跡などが出土している。また周囲には墓地も点々と存在しており、特に集落東側の石田大原地区からは、22基の甕棺墓(かめかんぼ)が発見された。甕棺墓は甕に遺体を入れ埋葬した墓のことで、これは弥生時代前期から中期にかけて、北九州で多く見られる埋葬方法である。甕棺内部やその周囲からは、鏡の破片、銅剣、ガラス玉や管玉など、権威の象徴と言える品々が発見されており、それ故ここは首長の墓地であると考えられている。




現在も田畑の広がる原の辻遺跡では
赤米や黒米といった古代米が栽培されている

 原の辻遺跡は出土品も良質かつ膨大だ。捕鯨の様子を描いた土器や、2匹の竜を描いた土器など、その当時の生活や信仰を知ることができる品も出土している。また中国製の貨幣、鏡や銅剣、鉄製品やガラス製品など、大陸の品々が弥生時代の遺跡としては他に類を見ないほど大量に出土しているのも特徴的だ。同時に、九州北部や瀬戸内の土器も出土していることから、これより一支国は、大陸の物資が集散する流通の拠点であったと考えることができる。原の辻遺跡は、弥生時代の大規模環濠集落としての有り様のみならず、当時の東アジアにおける交易の様子をも今に伝える遺跡として価値が高いものである。

2009年09月訪問




【アクセス】

郷ノ浦本町から壱岐交通バス「右廻り」で約25分、「原の辻遺跡バス停」下車すぐ。
芦辺港から壱岐交通バス「左廻り」で約30分、「原の辻遺跡バス停」下車すぐ。

【拝観情報】

見学自由。

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