臼杵磨崖仏 附 日吉塔、嘉応二年在銘五輪塔、承安二年在銘五輪塔

―臼杵磨崖仏―
附 日吉塔、嘉応二年在銘五輪塔、
承安二年在銘五輪塔
うすきまがいぶつ
つけたり ひよしとう、かおうにねんざいめいごりんとう、
じょうあんにねんざいめいごりんとう

大分県臼杵市
特別史跡 1952年指定


 九州の北東に位置する大分県は、早くより仏教文化が伝来し、また柔らかい凝灰岩が露出する箇所も多い為か、磨崖仏(まがいぶつ、岩壁に彫られた石仏)が非常に多く残る地域である。その中でも、大分県南部の臼杵市、臼杵湾に注ぐ臼杵川をやや遡ったその支流沿い、丘陵をえぐるように形成された谷間に位置する臼杵磨崖仏は、平安時代の後期から鎌倉時代に刻まれた、日本において最大の規模を誇る磨崖仏群であり、特別史跡に指定されている。また、それらの磨崖仏に見られる彫刻は非常に質が高く、美術的価値も極めて高い事から、史跡内に残る磨崖仏59体が、平成7年(1995年)、石仏としては初めて国宝に指定された(本指定27体、附けたり指定32体)。




磨崖仏の傑作と名高い古園石仏群の大日如来像
浮き彫り(レリーフ)と言うというよりも、ほぼ丸彫りに近い彫刻である

 臼杵磨崖仏は、古園石仏群、山王山石仏群、ホキ第一群、ホキ第二群の計四群により構成される。そのうち主だったものは平安時代後期に彫刻され、その後の一部は鎌倉時代に加えられた。中でも最も著名な古園石仏群は、大日如来像を中心として、左右に六体ずつの如来像、菩薩像、明王像、天部像を据えた、計13体の磨崖仏が並び、圧巻である。この大日如来は石仏の傑作と称され、かつては古園石仏群を覆うように満月寺の本堂が建てられていたという。しかしながら、その地層は極めてもろい熔結凝灰岩であるが故、浸食による破損が著しく、近年まで大日如来の頭部が落ちているという有様だった。現在は修復と保存処理がなされ、かつての姿に近い状態に蘇っている。




ホキ石仏第一群における第一龕、第ニ龕の如来三尊像
ホキとは崖を意味する言葉である

 古園石仏群の裏手に存在する山王山石仏群は、三尊形式の如来坐像が彫られた磨崖仏で、中尊は釈迦如来、右が薬師如来、左が阿弥陀如来と伝わっている。その山王山石仏群の向かいにあるホキ石仏第一群は、全部で四つの仏龕(ぶつがん)から成り、第一龕、第ニ龕にはそれぞれ如来三尊坐像が、第三龕には大日如来を始めとする五体の諸尊像が彫られている。なお、第四龕は鎌倉期のもので、地蔵菩薩半跏像び十王像が彫られている。ホキ石仏第一群の下に位置するホキ石仏第二群は、第一龕と第二龕から成り、第一龕には古園石仏群の大日如来に匹敵する美しさを誇る阿弥陀如来坐像とその脇侍の三尊像、第二龕には九品(くぼん)の阿弥陀如来像が並んでいる。




ホキ石仏第二群の阿弥陀三尊像、および九品阿弥陀如来像(右奥)

 これら臼杵磨崖仏の正確な造営時期やその由緒は定かではないが、古くより語り継がれてきた民話である「炭焼き小五郎伝説」によると、この地で財を成した真名長者夫妻の娘が、即位の為に都へと戻った夫の用明天皇(ようめいてんのう)を追い、都を目指していた道中で客死したのを受け、その菩提を弔う為に、中国から蓮城(れんじょう)法師を呼び寄せて彫らせたのが、この臼杵磨崖仏であるという。その際、蓮城法師の為に真名長者夫妻が建てたのが、現在は臼杵磨崖仏の向かいにある満月寺(まんがつじ)であると伝えられている。ただし、用明天皇が即位したのは飛鳥時代前期の585年であり、磨崖仏が作られたと考えられる平安時代とは大きく離れている。




満月寺の境内に残る蓮城法師像(左)と真名長者夫妻像(右)
石造の人物像としては、最古級のものだという

 満月寺の境内には、その伝説の人物である真名長者夫妻や、磨崖仏を彫ったとされる蓮城法師の石仏が残されている。それらは、室町時代に作られたものであると考えられており、すなわち「炭焼き小五郎伝説」もまた、室町時代以前より存在していたという事になる。なお、これら各種磨崖仏の他、満月寺の境内には日吉塔と称される大型の宝篋印塔や、および石造の仁王像や五輪塔などが残されている。このうち日吉塔は鎌倉時代末期に作られたものであるとされ、一石で作られた相輪など、精巧な作りを残している事から、重要文化財に指定されている。この日吉塔を始めとした満月寺に残る石仏、磨崖仏もまた、臼杵磨崖仏と共に特別史跡に指定されている。




臼杵磨崖仏の附けたりとして特別史跡の指定を受ける二基の五輪塔
大きい方には嘉応2年、小さい方には嘉応2年の銘が残る

 臼杵磨崖仏が刻まれたその丘陵の上部には、二基の五輪塔が鎮座している。これらはそれぞれ嘉応2年(1170年)、承安2年(1172年)の銘が確認されており、日本に現存する最古級の五輪塔として重要文化財に指定され、その敷地は日吉塔と同じく臼杵磨崖仏の附けたりとして特別史跡に指定されている。また、臼杵磨崖仏より臼杵川を3キロメートル下った所に位置する門前(もんぜ)地区の丘陵上にも、臼杵磨崖仏と同時期作の磨崖仏である門前磨崖仏が存在する。如来三尊像を中心に、多聞天および不動明王、二童子立像が刻まれた門前磨崖仏は、損傷が著しく石仏としての文化財指定は受けていないものの、臼杵磨崖仏の一部としてその敷地は特別史跡に指定されている。

2010年07月訪問




【アクセス】

JR日豊本線「臼杵駅」から臼杵交通バス「三重町行き」で約20分、「臼杵石仏バス停」下車、徒歩約5分。

【拝観情報】

拝観料530円、拝観時間は4月〜9月が6時〜19時、10月〜3月が6時〜18時。

【関連記事】

大谷磨崖仏(特別史跡)
太山寺本堂(国宝建造物)