三段峡

―三段峡―
さんだんきょう

広島県山県郡安芸太田町、北広島町
特別名勝 1953年指定


 広島県の山間部に端を発する太田川は、支流の水を集めつつ悠々と流れ、広島平野に日本有数の三角州を形成して瀬戸内海へと注ぎ込む。その太田川の支流である、柴木(しばき)川と横川(よこごう)川が作り出した風光明媚な峡谷、それこそが三段峡だ。三段峡は柴木川上流、かつての樽床集落を水に没して作られた樽床ダム付近から、それより下流、2003年に廃線となったJR可部線の旧三段峡駅付近に至るまで、全長約16kmに渡って連なっており、そこではいくつかの滝や急流、断崖絶壁を伴う淵など、極めて変化に富んだ多種多様な峡谷景観を目にすることができる。




石英斑岩の白い岩壁が美しい竜ノ口

 三段峡一帯の地質は硬い火成岩、それもマグマが地中の深すぎず浅すぎない所でゆっくりと固まって作られた、半深成岩の石英斑岩および花崗斑岩から構成されている。その岩肌を、広島県と島根県の境、広島県で最高所の高原である八幡高原に源流を持つ柴木川が流れて浸食し、その過程で段差のある場所に滝が生まれた。そしてその滝は滝壺をより深くえぐって高さを増し、また滝自体も侵食を繰り返してその位置を徐々に後退させていった。そのようにして、長距離に渡って滝が後退し、その末にできたのが三段峡という大峡谷なのである。




切り立つ岩々に囲まれた黒淵の光景

 三段峡の上流端である樽床ダムの標高は約790m、下流端である旧三段峡駅の標高が約340mなので、三段峡の高低差は実に450mにもなる。その極めて勾配のきつい地形ゆえ、三段峡を流れる水は力強く、石英斑岩特有の白い岩肌を水が勢い良く滑り落ちるその様や、多重に段を成す複雑な形状の瀑布が飛沫を上げる光景、高さ200mにも及ぶ断崖絶壁に囲まれた淵の眺めなど、まさに山紫水明のごとく美しい景観がそこには広がっている。ただし昭和32年に三段峡のすぐ上流に樽床ダムが竣工した事により、ダムができる以前と比べて流れる水の量が減少し、峡谷が持つ迫力や美しさもまた減ってしまったという話も聞かれる。




仏岩とその周辺
中央付近、わずかに白く見える岩が仏岩だ

 三段峡の植生は極めて多様で、ブナ、ミズナラ、モミジなどの落葉広葉樹や、ウラジロガシなどの常緑広葉樹、スギなどの針葉樹など、様々な種類の木々が広く分布している。これはすなわち暖帯性の植物と、亜寒帯性の植物が混在していることになり、さらには高山性植物や水際植物なども加わり、そこでは非常に多彩な植生を見る事ができる。このように広葉樹と針葉樹が混じるのは、日本の古い森に見られる特徴でもあり、三段峡はそのような日本古来の森の姿を今に残す貴重な場所であるとも言える。秋には落葉広葉樹が赤や黄色に美しく色付き、屹立する山々や断崖絶壁、白い岩肌などと相まって類稀なる景観を作る。




三段峡と言う峡谷の名の由来にもなった三段滝

 三段峡には名所が数多くあるが、特に優れた景観を持つ「黒淵」「三段滝」「三ツ滝」「猿飛」「二段滝」の五ヶ所が三段峡の五大壮観として知られている。黒淵は三段峡の中心からやや下流にある、高さ100mほどの岸壁が建ち並ぶ淵であり、水深が最大で5mほどあるため水が黒く見える事からその名が付いた。山間を大きく蛇行する、貫入曲流によって作られた切り立つ岩々が、濃淡の付いた緑色の水と相まって、雄大な自然美を醸し出している。また、三段峡中心より上流には三段滝と呼ばれる、三段峡という名の由来にもなった滝があり、その名の通りに30mほどの高さを三段に分けて落ちる三段滝は、背後の山や周囲の木々と相まって、幽玄なる趣を見せる。




猿飛を抜けた直後、二段滝方面を見る
猿飛は水深が7mもあるが、水は底が見えるほどに澄んでいる

 三段峡の中間で柴木川へと合流する横川川には、猿飛と呼ばれる狭門がある。両脇に迫る岸壁の高さはおよそ20m。しかしながらその幅は5mと非常に狭く、その為狭小部分の水深は7mもある。猿飛という名は、かつてはこの岸壁の上を猿が飛び交っていた事から付いた。二段滝は猿飛の奥にある高さ11m、幅5mの小ぶりな滝で、二段滝とはいうものの、その二段目は昭和63(1988)年の大雨により崩壊した為現在は一段のみである。これはまさに、三段峡を作り出した滝の後退現象そのものであり、猿飛もまた二段滝が後退するそのプロセスによって作られたものである。猿飛および二段滝は、現在も進行する滝の後退現象を実際に目で見ることができる場所なのである。

2009年10月訪問




【アクセス】

「広島バスセンター」より広島電鉄バス「三段峡行き」で約90分(高速便)、「三段峡バス停」下車すぐ。

【拝観情報】

三段峡入口からシャトルバスで水梨口へ行き、遊歩道を歩き始めるのが効率良い。見どころを一通り回るには約3時間必要。

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