高島市海津・西浜・知内の水辺景観

―高島市海津・西浜・知内の水辺景観―
たかしましかいづ・にしはま・ちないのみずべけいかん

滋賀県高島市
重要文化的景観 2007年選定


 琵琶湖の北西部、琵琶湖八景の一つ「暁霧・海津大崎の岩礁」や「日本のさくら名所100選」に選定された桜の名所として著名な海津大崎。その岬の付け根に位置する海津は、京都と北陸を結ぶ西近江路および琵琶湖水運の拠点として栄えたかつての宿場町・港町である。港町としての歴史は湖上水運が整備された15世紀からであり、人の往来や物流が増加した江戸時代には旅人相手の商業も発展した。琵琶湖水運が廃れた現在は閑静な住宅地となったものの、海津には水辺に生きてきた人々の生活をうかがい知る事ができる多種多様な文化が今もなお受け継がれており、海津大崎から海津集落、西浜集落を経て知内川の河口へと至るその一帯が重要文化的景観に選定されている。




海津を象徴する石積みの堤防

 海津から西浜にかけての湖岸には、高さ約2.5メートルの石積み堤防が約1.2キロメートルもの長さに渡って連なっている。海津の象徴ともいえるこれらの石積みが築かれたのは、江戸時代中期の元禄16年(1703年)の事だ。琵琶湖で最も幅の広い部分に接する海津は波風の影響を強く受ける立地にあり、台風などで大波が起きる度に家屋や街道が被害を受けていた。元禄14年(1701年)に甲府藩領高島郡の代官として海津西浜に赴任した西與一左衛門(にしよいちざえもん)はその事を哀れに思い、海津東浜の代官であった金丸又衛門と協議の上、幕府に許可を得て石積みの堤防を築いたのである。以来は水害もなくなったといい、西浜の蓮光寺にはその功績を讃える石碑が残されている。




海津集落に残る古い町家

 また別の史料によると、天和2年(1682年)には既に石積みが築かれていたともされる。いずれにせよ、江戸時代中期には現在のような光景が広がっていた事には変わりない。石積みに用いられている石材は、湖北で採れる花崗岩が主である。加工技術は古いものと新しいものが混在しており、また石の積み方も布積みのみならず谷積みや乱積みが混在している事から、集落を守る堤防として度々補修の手が加えられていた事が分かる。この石積みの他にも、建造物としては昭和初期に建てられた海津漁港の旧組合倉庫、知内漁港の旧組合倉庫、および江戸時代末期に建てられた5棟の町家建築が、景観上において特に重要なものとして重要景観構成要素に定められている。




海津の三ヶ所に残る「イケ」にはそれぞれ社が祀られている

 琵琶湖に面し、なおかつ湧水の多い土地である海津の人々は、常に水と共に生活を送ってきた。海津の湖岸には「橋板」と呼ばれる板が渡されているが、これは湖岸沿いに住む家の人々が洗い物をする為の桟橋である。また集落内にも「イケ」と呼ばれる湧水を利用した水場が整備されており、共同井戸および洗い場として利用されていた。なお、集落の外側には、西内沼や奥田沼といった内湖(琵琶湖の周囲に散在する池や沼)が形成されている。これらの内湖は水路で琵琶湖と接続されており、昭和の中期までは舟溜まりとして利用されていた。全国的にも珍しい湿地性の希少植物も生育する事から、近年にはビオトープとして整備され、学習に活用されている。




湖上に浮かぶ「エリ漁」の仕掛け

 琵琶湖へと注ぐ河川、内湖や湧水の流水が織り成す豊かな水場は、生息する魚類もまた豊富である。人々は古くより、魚の生態に合わせた数多くの漁法を編み出してきた。海津西浜の西を流れる知内川は、「ヤナ漁」の保護水面である。「ヤナ漁」とは、川の流れを柵や簾で堰き止めてダムを作り、その両脇に据えられたヤナと呼ばれる仕掛けに遡上してきたアユなどを誘導して捕らえる漁法だ。他にもこの辺りでは、カラスや水鳥の羽を着けた竿で水面を叩き、湖岸に群れる子鮎を驚かせて網へと追い込む「オイサデ漁」、矢印のような形に柵と簾を立てて魚を集める「エリ漁」などを目にする事ができる。いずれも魚の習性をうまく利用した伝統漁法である。




湖岸に沿って続く海津大崎の桜並木

 海津といえば、海津大崎の桜並木が有名である。春になると湖岸に沿って植えられた約800本のソメイヨシノが咲き乱れ、約4キロメートルに渡って続く桜の回廊が出現する。このあまりに見事な桜並木が作られたのは昭和の初期、当時は未舗装であった海津大崎の道路を補修する作業にあたっていた宗戸清七氏が、作業の合間に桜の若木を植えた事に端を発する。その後は海津村の青年団も協力するようになり、さらに昭和11年(1936年)には大崎トンネル開通の記念事業として海津村が植樹を引き継ぎ、今に見られる桜並木が形成された。海津大崎を縁取るピンクの帯は湖水に良く映え、他に類を見ない湖岸景観を作り出している。

2008年03月訪問
2009年04月再訪問




【アクセス】

JR湖西線「マキノ駅」より徒歩約10分。

【拝観情報】

散策自由(ただし、住民の迷惑にならないように)。

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