近江八幡の水郷

―近江八幡の水郷―
おうみはちまんのすいごう

滋賀県近江八幡市
重要文化的景観 2006年選定


 琵琶湖東部の近江八幡市。その市内北東部に広がる西の湖周辺には豊潤な湿地帯が広がっており、そこでは一面に葦(ヨシ/アシ)が生い茂るヨシ原の光景を目にすることができる。このヨシ原を中心に、周囲の田畑、ヨシ産業を営む集落およびその背後の里山、西の湖と琵琶湖を結ぶ八幡堀といった近江八幡の水郷景観が、2006年重要文化的景観の第一号として選定された。




西の湖沿岸とその周辺にはヨシ原が広がっている

 西の湖は、内陸にある琵琶湖から派生した池や沼、いわゆる内湖の一つである。水に恵まれかつ水深が浅い内湖では、豊かな湿性生態系が育まれ、ヨシなどの湿性植物が生育する格好の場所となっている。この西の湖のヨシ原の景観は、昔よりヨシを利用する人々の産業活動によってこの地に受け継がれてきた、貴重な文化的景観であると言える。




ヨシ原とヨシ原を結ぶ運河の光景

 かつて西の湖のような内湖は琵琶湖周辺の至るところに存在していた。しかし近代に入ると多くの内湖が干拓により消失。西の湖は残ったものの、今度はヨシ葺屋根の減少によりヨシの需要が減少し、ヨシ原の維持が難しくなってきてしまう。そこで近江八幡の人々は、この水郷景観を守ろうと「近江八幡市風景づくり条例」を制定するなど積極的な保護の取り組みを行い、そのような努力も評価され近江八幡の水郷景観は重要文化的景観に選ばれた。




円山集落付近にあるヨシの集積所

 ヨシ原の北岸には湖からの強風を防いでくれる里山が点在している。これらの里山はもとは内湖の中に浮かんでいた島なのであるが、灌漑により今では内陸と繋がった地形となっている。そこにある円山、白王といった集落は、ヨシの栽培、加工などを産業としてきた昔ながらの集落で、今もなおヨシを用いたスダレなど高級夏用建具の製造が行われている。これらの集落やその背後の里山もまた、西の湖や周辺のヨシ原と密接に関わり合い、育まれてきた重要な景観要素である。




琵琶湖より運ばれてきた商品の荷揚げが行われていた「浜」

 西の湖から琵琶湖にかけては、八幡山をぐるりと取り囲むように八幡堀と呼ばれる運河が通されている。これは安土桃山時代、豊臣秀次が八幡山に城を作る際に城下町と共に整備したもので、その全長は6kmにもなる。この運河は琵琶湖より舟で運ばれてきた各国の商品を八幡の商家へと運搬する水運を担い、近江八幡の経済発展を支えてきた。




八幡堀は近江八幡の人々の生活に深く結びついていた

 また、八幡堀を利用して運ばれたのはの物産だけではない。西の湖などで生産、加工されたヨシ製品もまたこの水運を利用して八幡の商家に集められ、各地へ売られていった。江戸の日本橋で近江商人が売買を行っていた商品の中には、近江表(おうみおもて)と呼ばれる畳や、近江上布(おうみじょうふ)と呼ばれる麻織物など、湿生植物を原料とするものも多かったという。

2008年03月訪問




【アクセス】

JR東海道本線「近江八幡駅」より徒歩約30〜60分(範囲が広大な為、レンタサイクルが便利)。

【拝観情報】

散策自由(ただし、住民の迷惑にならないように)。

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