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―宇治の文化的景観―
うじのぶんかてきけいかん
京都府宇治市 重要文化的景観 2009年選定 
京都盆地の南東部に位置する宇治の地は、琵琶湖から流れ出る宇治川と京都から奈良へと至る奈良街道が交差する水陸交通の結節点であり、古くより往来や流通において重要な役割を担ってきた。平安時代後期には貴族の別荘地としての開発が進み、また中世になると茶の栽培が始まり、室町時代後期には一大生産地としてその名を天下に響かせた。現在も宇治には重層的に発展してきた市街地が広がっており、その周囲には茶園が点在している。茶業に関する独自の文化的景観が見られることから、中心市街地にあたる中宇治地区、および白川地区の茶畑、宇治川や山丘を含む約228.5ヘクタールの範囲が国の重要文化的景観に選定された。なお、都市域を含む重文景としては当件が初めての選定である。  寺社が軒を連ねる宇治川右岸の町並み
宇治川を見下ろす宇治山には二子山古墳が築かれており、少なくとも古墳時代中期には宇治の地が重視されていたことが分かる。『日本書紀』や『山城国風土記』によると、応神天皇と地元の豪族の間に生まれた「菟道稚郎子（うじのわきいらつこ）」が宇治川の右岸に宮殿を構えたとされ、その名が宇治の語源になったともいう。その後も菟道稚郎子は地主神として崇敬され、宮殿の跡地には宇治神社や宇治上神社が鎮座する。放生院の「宇治橋断碑」（重要文化財）によると、飛鳥時代の大化二年（646年）に僧・道登（どうとう）が宇治橋を架けたとされ（『続日本紀』には僧・道昭（どうしょう）が架けたと記される）、以降は交通の要衝としての性格を強め、両岸の集落も発展していった。  喜撰橋（きせんばし）越しに浮島十三重塔（重要文化財）を臨む
平安時代中期の長徳四年（998年）には、最高権力者として栄華を極めた藤原道長（ふじわらのみちなが）が宇治川の左岸に別業（別荘）を構えた。道長亡き後の永承七年（1052年）には、道長の子である藤原頼通（ふじわらのよりみち）がその別業を寺院・平等院へと改める。平等院の西側には碁盤目状の整然とした区画に貴族の邸宅が建ち並び、都に近く風光明媚な宇治は貴族の別業地として開発が進んでいった。武士が台頭すると宇治は度々合戦の舞台となり、建武三年（1336年）には楠木正成（くすのきまさしげ）の兵火によって宇治は灰燼に帰す。その復興の際に奈良街道と宇治橋を直線的に結ぶ現在の宇治橋通りが整備され、現在にまで継承されている特徴的な三角形の街区が形成された。  市街地の中宇治地区に見られる茶畑
覆下（おおいした）栽培に用いられる幕が掛けられている 宇治茶の歴史は鎌倉時代前期に遡る。臨済宗の開祖である栄西（えいさい）が宋より茶を持ち帰り、その種を譲り受けた高山寺の明恵（みょうえ）が梶尾と宇治に茶園を開いたことに始まる。室町時代後期には茶摘み前に日光を遮る覆下栽培による良質な碾茶（てんちゃ）の製造技術が開発された。当初の茶は碾茶を臼で引いた抹茶であり、僧侶が医薬品として飲むものであった。次第に一般層にも広まっていき、また安土桃山時代に千利休（せんのりきゅう）が茶の湯を大成すると権力者に浸透していった。江戸時代前期には中国より渡来した隠元隆琦（いんげんりゅうき）が宇治北部の五ケ庄に黄檗宗萬福寺を創建し、茶葉を煎じて飲む煎茶の文化がもたらされ萬福寺から全国へと普及していった。  明治期の典型的な茶商の姿を今に伝える中村藤吉本店
江戸時代は茶の消費量が増加し、宇治やその周囲のみならず南山城地方の全域で茶の栽培が行われるようになる。その中においても歴史の深い茶産地である宇治は高級茶としての地位を確立し、茶の生産から加工流通まで関わる「宇治茶師」は特権的な身分として階層化され、その筆頭である茶頭取は宇治の代官を務めていた。明治維新を迎えると江戸幕府や大名など茶の湯をたしなむ武家層が没落し、碾茶の需要が大きく減少した。一方で海外への輸出品として茶は生糸に次ぐ地位を占めており、宇治では玉露など高級煎茶の生産が中心となっていく。近代の中宇治地区には茶師の系譜を引く茶商を中心に、大小の卸売りや小売りの店舗、それに付随する製茶工場や出荷場が築かれた。  谷間の傾斜地に茶畑が広がる白川地区
中宇治地区から南東へ山をひとつ越えた谷間に位置する白川地区は、豊かな里山と茶畑が広がる宇治の奥座敷である。平安時代後期の康和四年（1102年）に藤原頼通の娘であり後冷泉天皇の皇后であった藤原寛子（ふじわらのひろこ）が平等院の奥の院として白川別所金色院を建立し、中世には「白川十六坊」と称されるほどの坊院を構える大寺院であった。しかし江戸時代中期までにその多くが衰退し、明治の廃仏毀釈により全てが廃絶。寺院の跡地は宅地や茶畑に転用され、茶農村集落としての性格が強まっていく。現在も白川地区には数件の茶工場が稼働するなど近世からの茶農村としての集落構造を見ることができ、中宇治地区と共に宇治茶業の変遷と生業形態を物語る景観を今に伝えている。 2009年10月訪問
【アクセス】
＜中宇治地区＞ ・JR奈良線「宇治駅」より徒歩約5分。 ・京阪電鉄宇治線「宇治駅」より徒歩10分。 ＜白川地区＞ ・宇治市中心部より車で約10分。 【拝観情報】
散策自由（ただし、住民の迷惑にならないように）。 【参考文献】
・月刊文化財 平成21年2月（545号） ・宇治の文化的景観｜国指定文化財等データベース ・宇治の文化的景観｜宇治市 ・宇治市歴史的風致維持向上計画｜宇治市 ・宇治の文化的景観における 白川の茶業と家屋｜奈良文化財研究所学術情報リポジトリ 【関連記事】
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